会議で「どう思う?」と聞かれ、考えはあるはずなのに言葉にならない。こうした言葉にならない自分の意見がなぜ起きるのかを、記憶と学びの研究から読み解きます。そのうえで、ニュースを題材に、毎日短く自分の考えを書く練習を紹介します。
「どう思う?」に、「いいと思います」としか言えない
部署の会議で、新しい取り組みについて「どう思う?」と聞かれました。ニュースや資料は読んでいて、考えはあるはずなのに、その場で言葉にならず、「いいと思います」とだけ答えました。
情報は集めているのに、自分の意見を言えないのがもどかしい。何も考えていない人だと思われたかもしれないと気になります。仕事で自分の考えを伝えたい気持ちと、まとまっていない意見を言って外したくない気持ちの間で、言葉にならない自分の意見が残ります。
研究からは、読むことと思い出すこと、読むことと自分で言葉を作ることの違いが分かっています。
昨日読んだニュースの要点を、いま一文で言えるでしょうか。
理由は二つ:読み返して安心している、自分の言葉を作っていない
資料や話は理解できているのに、自分の考えをうまく言葉にできない。意見を言えない。これは決して珍しいことではありません。「あの人は頭の回転が速いから」「もともと自分の意見を持っている人なんだ」と思うこともあるかもしれません。しかし、自分の意見や考えを伝えることは、言葉にならない二つの理由を知り、練習を重ねることで、後から身につけていける技術です。
理由1
読み返すと分かった気になるが、残るのは思い出した内容
ある実験では、学生に短い文章を読んでもらい、そのあと二つのグループに分けました。Aのグループは、文章を見ずに、覚えている内容を書き出します。Bのグループは、同じ文章をもう一度読みます。
2日後と1週間後に、どれだけ覚えているかを確かめると、書き出したAの方がはるかによく覚えていました。ところが、「覚えている自信」は、読み返したBの方が高かったのです(Roediger & Karpicke, 2006)。
| 読んだあと | 2日後・1週間後 | 覚えている自信 |
|---|---|---|
| A:見ないで書き出す | よく覚えていた | Bより低い |
| B:もう一度読む | Aより忘れていた | Aより高い |
ニュースを読んで「分かった」と感じても、それは記事が目の前にあるときの感覚です。会議の場で取り出せるのは、見ないで思い出したことのある内容です。
理由2
自分で作った言葉の方が、残りやすい
5つの実験で、自分で作り出した言葉は、示された言葉を読んだだけの場合より、よく覚えられていました(Slamecka & Graf, 1978)。
研究の範囲
単語を使った実験で、意見を述べる練習を調べたものではありません。読んだ内容に対して自分の考えを一度言葉にしておく、という形で生かせます。
記事の意見を読むことと、自分の考えを言葉にすることは、別の作業です。一度も自分の言葉にしたことがない考えは、会議の場で急に出てきません。
「いいと思います」としか言えないのは、考えがないからではなく、考えを一度も言葉にしていないからかもしれません。
原則は二つ:見ないで要点を言う、考えを一文で書く
自分の意見や考えが言えない理由が分かったところで、次はどうしたらいいかを考えていきましょう。理由が二つあるので、対策の原則も二つです。
原則1
読んだら、見ないで要点を言う
理由1に対応する原則です。読み返す前に、画面を閉じて要点を一文で言います。
原則2
要点に対する自分の考えを、一文で書く
理由2に対応する原則です。「自分は〇〇だと思う。なぜなら〜」の形で、考えを一文にします。
ニュースを一本読み、要点と考えを一文ずつ書く
トレーニングでは、たった一文だけのアウトプットを練習します。ポイントは「書くこと」と「続けること」の二つです。1日5分ほどで、次の順に進めます。
書く
要点を言い、考えを一文書く
- ニュースを一つ読み、閉じて要点を一文で言う仕事に関係しそうな記事を選び、画面を閉じてから要点を言います。
- 「自分は〇〇だと思う。なぜなら〜」と書く例:「在宅勤務の手当は必要だと思う。なぜなら、光熱費が増えた家庭が多いから」。
続ける
翌朝確かめ、毎日同じ場面で続ける
- 翌朝、書いた一文を見ないで言う言えなかったら、もう一度だけ読み、また閉じて言います。
- 毎日同じ場面で、1日1本続ける通勤の帰りなど、毎日決まった場面に結びつけます。
今日読んだニュースを一つ選び、閉じたまま「自分は〜だと思う。なぜなら〜」と一文書いてみてください。
題材選びが手間で、ほかの人の考えと比べる機会もない
毎日一文を書いても、二つのことが残ります。
限界1
毎日、題材を選ぶのが手間
どの記事を題材にするかを毎日自分で選ぶのは、意外と手間がかかり、続かない原因になります。
限界2
ほかの人の考えと比べる機会がない
自分の考えが一人よがりになっていないかを、ほかの人の考えと比べて見直す機会がありません。
「自分の意見を書くこと」と「続けること」を両立させる4つの条件
毎日一文を書く練習は、道具がなくても始められます。そのうえで二つの限界を補うなら、練習の場に次の4つの条件があると続けやすくなります。ニュースアプリや日記アプリを選ぶときも、同じ条件で見られます。「確かめること」の列は、申し込む前に見ておく点です。
| 条件 | 理由 | 確かめること |
|---|---|---|
| 題材題材が毎日違うこと | 毎回違う題材で、自分の言葉を作り出す練習になる(Slamecka & Graf, 1978) | 題材の種類が多く、頻度も十分か |
| 手軽さ1回が短く、手軽に続けられること | 毎日の決まった場面で続けるには、1回が短い方がよい | 1回にかかる時間、スマホで使えるか |
| 比較ほかの人の考えと比較できること | 自分で作った言葉を見直すには、比べる相手が要る | ほかの人の意見を読めるか、解説があるか |
| 費用無料で試せること | 自分に合うかは、使ってみないと分からない | 無料期間の長さ、その後の月額、解約の方法 |
自分の意見や考えを、毎日一文から始める「トキアカ」
4つの条件をそろえた練習の場として、日本経済新聞社のアプリ「トキアカ」を紹介します。
トキアカは、日経電子版などの記事を題材にした思考トレーニングのアプリです。土日祝日も含めて毎朝5時に、新しい問題が2問届きます。1問は、次の順に進みます。
- 選択式のクイズに答える記事の内容をもとにした問題を、選択肢から選んで解きます。
- 解説を読む正解でも不正解でも、解説で背景や理由を確かめます。
- お題に自分の考えを投稿するこの記事で紹介した「自分は〇〇だと思う。なぜなら〜」の形が、そのまま使えます。
- ほかの人の考えと元の記事を読む同じお題へのほかの利用者の投稿と、出題元の日経電子版などの記事が読めます。
お題は、「なぜこうなんだろう?」(ロジカル思考)、「ほんとにそうなの?」(クリティカル思考)、「顧客の視点で考えると?」(顧客思考)など、7つの見方から出されます。同じようなニュースでも、毎回違う角度から考える練習になります。
日経電子版の有料会員でなくても、出題元の記事はアプリから読めます。投稿には、ほかの利用者から「イイね」「目からウロコ」の反応が付き、毎日アプリを使うとポイントがたまってメダルの色が変わります。その週にどれだけ続けたかが目に見えるので、習慣づくりの目安になります。
4つの条件に照らすと、題材は毎日違う記事から届き、1日2問をスマホで解けます。ほかの人の考えと解説を読んで比べられ、はじめの1か月は無料です。一方で、題材は経済や仕事のニュースが中心で、パソコンでは使えません。
向いているのは、ニュースを題材に、毎日短く自分の考えを書く習慣をつけたい会社員です。ほかの人の意見と比べると、自分の考えの足りない所が見えてきます。ほかの分野で練習したい人は、別の題材も組み合わせてください。
費用は、日経ID決済なら月額770円、iPhoneのApp内課金なら月額1,100円です(どちらも税込み)。そのほかの条件は次のとおりです。
| 項目 | トキアカ |
|---|---|
| 料金 | 月770円(日経ID決済) 月1,100円(iPhoneのApp内課金) |
| 無料期間 | はじめての申し込みで1か月無料 |
| 配信 | 毎日2問、朝5時に届く(土日祝も) |
| 題材 | 過去数か月の日経電子版などの記事 |
| 問いの種類 | 7つの見方(ロジカル・クリティカル・経営・未来・顧客・技術・グローバル) |
| 日経電子版 | 有料会員でなくても、出題元の記事は読める |
| ほかの人の考え | 全員の投稿を読める 反応は送れるが、コメントは不可 |
| 使える端末 | スマホのアプリ(パソコン不可) |
| 解約 | アプリの外で手続き(返金なし) |
無料の1か月のうちに、毎朝届く2問を同じ場面で続けられるか、会議で一言目が出やすくなったかを確かめると、続けるかを判断しやすくなります。iPhoneで日経ID決済を選んだ場合は、App Storeでも申し込むと二重の契約になるので注意してください。
サービスを使わない場合も、今日読んだニュースで、自分の考えを一文書くことから始めてみませんか。
参考にした研究・資料
- Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592–604.
- Roediger, H. L., III, & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.
